2020/7/31面接は対話になるか

7月31日のことゼミでは、「面接は対話になるのか?」というテーマで議論を行っていきました。面接は入社試験や入学試験などの場面で課されることが多いですが、皆さんはそんな面接に対してどのような印象をお持ちでしょうか?得意だという人もいれば、苦手だという人もいるでしょう。そのような面接に対する印象はなぜ生まれるのかといったことや、面接で使える戦略などについて考えていきました。ぜひ皆さんもこの記事を参考に、自分なりの面接に対する印象や必勝法について考えてみていただけたらと思います!

①なぜ、このテーマに?

そもそも、今回「面接は対話になるのか?」がテーマとなったのは、面接に対する苦手意識によるものです。「自分のことを親しい人には話せるのに、年齢が上の面接官相手だと緊張してしまう…。」、「こちらだけ一方的に質問されると自分がどう思われているのかが気になる…。」という不安な気持ちを抱く人も、少なからずいるのではないでしょうか?そういった「会話の主導権が常に面接官にあり、力関係も面接官の方が上になる」という状況が、面接への苦手意識につながるのではとの分析がファシリテーターによって為されていました。

そして、会話の主導権も力関係も面接官側が優越するという面接は、果たして対話的といえるのでしょうか?そもそも、「対話」という言葉は「話し相手との価値観や情報の共有」という意味を持ち合わせているそうです。ですが、自分の話したことについて答えてくれないことは、対話の定義と照らし合わせると不自然なのではないかという指摘もありました。

これらを基にして、挙げられていたメインクエスチョンは、

1.上下関係を変える瞬間はあるか?

2.対話の上下関係を変える瞬間を意図的につくることはできるか?

3.面接に必要な対話とはどんな対話だろうか?

という3つの問いでした。

②ポライトネス理論って、何?

また、考える材料として「ポライトネス理論」というものも紹介されていました。「ポライトネス理論」とは、「会話相手との関係性を適切に保つために配慮して発言する」という理論のことです。

そして、その相手との関係性を保つための会話の際に重要なのが、「フェイス」と「FTA(Face Threatening Act)」です。まず、「フェイス」とは、話し相手から自分がどう思われたいのかということを意味します。この「フェイス」は、相手から良い印象を持たれたいという「ポジティブ・フェイス」と、相手と関わりを持ちたくないという「ネガティブ・フェイス」の二つに分類されます。続いて「FTA(Face Threatening Act)」とは、自分の思う「フェイス」を他人が脅かす行動のことを意味しています。そして、相手の行うFTA に対し、こちらも自分のフェイスを実現する為に回避行動としてFTAを行います。この行動を「ポライトネス・ストラテジー」と呼び、良い印象を持たれたいときには「ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー」を、反対に、距離を置きたいときには「ネガティブ・ポライトネス・ストラテジー」という戦略をとることになります。こういった「ポライトネス・ストラテジー」も、面接の場面で利用できるのではないかとの指摘もありました。

③議論の展開は…?

上記の情報を基にしてゼミ内で議論が行われました。すると、その中で、上記の「ポライトネス・ストラテジー」を活用する場面は面接のとき以外にも、他人とより親密になるとき等にも無意識的に使っているのではないかという意見が挙がりました。また、「ポライトネス・ストラテジー」はある程度関係性が深い間柄でのコミュニケーションにおいては有用だが、初対面の面接官と話す際にはあまり効果がないのではないかといった指摘もありました。この点に関して言えば、ポジティブ・ポライトネス・ストラテジーの1つの例として「冗談を言え」というのが紹介されていましたが、確かに、初対面で関係性もゼロの状態の相手にいきなり冗談を言うということは、それ相応の勇気がいりますし、相手の性格などの知識も知りえない状況のため、なかなかできるという人はいないのではないでしょうか。

そういった議論から、関係性がゼロの状態で行われるという特徴のある面接で自己開示をしていくには、「ポライトネス理論」を活用することとは別に、どんなストラテジーが有効なのかについて話し合うこととなりました。以下は、その話し合いで出た意見をご紹介します。

④面接に使えるストラテジーとは?

面接についてそれぞれの経験を振りかえっていくと、必ずしもゼミ生全員が面接に苦手意識をもっている訳ではないということが明らかになりました。「自分のことを全く知らないからこそ好きなようにアピールできる」、「面接官さんはどんなに無愛想でも自分の話を聞いてくれるスタンスでいると思って受けてる!」など面接を好意的に捉え、得意としている学生も一定数いるようです。面接が得意な人と面接に苦手意識をもってしまう人との違いはどこにあるのでしょうか?それが分かれば面接に打ち勝つストラテジーが見えてきそうです。

また、面接で求められる受験者の姿は時代によって変化してきたのではないかという指摘もありました。そこで紹介されたのが「I-me理論」と呼ばれるものです。例えば、一昔前は体育会系部活のキャプテンといった集団の中で規範通りに動くことができる存在が面接官に好印象を与えてきたといいます。しかし、ここでの主体は社会規範に則った従順な存在であり、「個性」といった要素は前面にでていません。これを、ここでは「Me」として捉えます。それに対して、近年は「個」としての人物を評価するように面接の風潮が変わってきたのではないかというのです。このような個性体としての自我の側面を「I」と呼びます。「I」と「Me」はどちらも個人の自我を形成する側面で、誰しもが持ち合わせているものですが、面接で求められる主体は「Me」から「I」へと変化したのではないだろうかということがここでは議論に上がりました。そして、規範に従うだけの主体ではなく、たとえはみだしたとしても自分の個としての主張をすること。そして大切なことはそこに筋を通して説明することだという話になりました。そのためには、話を誇張して表現することも、面接官に訴えかけるような演技をすることもまた、面接の必勝法の1つといえるのかもしれません。

⑤これからの面接必勝法

議論の最後には、面接が得意な人と不得意な人を混合した小グループで自分の面接必勝法について共有する時間を設けました。面接が得意な人は一体どんなストラテジーを使ってきたのでしょうか。出た意見をいくつか挙げると、「(主に集団面接で)ほかの人が言わなそうなことを言って差異化をはかる」、「自分のことばで伝えるから練習はしすぎない」などがありました。

面接で私たちが相手にする面接官という存在は、私たちに対して権威をもっていますが、私たちとの関係性は全くありません。この状況で自己開示をし、コミュニケーションをしていかなければならないのです。多くの人は面接官の権威性に緊張感を抱き、本来の能力を発揮することができません。しかし、逆に関係性がない存在だからこそ「いつもの自分」を知りえない存在だともいうことができます。演じている自分と素の状態の自分との間の区別は面接官の前ではなくなるのです。いっそ、本当の自分を見せなければならないという義務感をもつのではなく、相手が求める主体を演じることも能力の1つではないでしょうか。

面接を打ち勝つために有効なストラテジーは1つではありません。ふだん私たちは様々なテクニックを利用してコミュニケーションをはかっています。ポライトネス理論もその1つかもしれません。「会話の主導権を奪われ、力関係も面接官にある」というほかにはない面接というコミュニケーションの場を楽しみ、それぞれがもつ「個」と「ストラテジー」に自信をもって臨むことができたら、面接を対話に変えていけるのではないでしょうか。

                             (和田、槇野)

参考書籍、参考記事

・平田オリザ 『わかりあえないことから―コミュニケーションとは何か』
 (2012) 講談社現代新書

・UX TIMES 「ポライトネス理論」(2018)
  https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/politeness-theory/

・清水崇文 「実践的コミュニケーション能力を伸ばすために[3]」(2018)
  https://gakuto.co.jp/docs/download/pdf/eigo131_7.pdf

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