2020/6/19 クイズ番組と学力観

はじめに―クイズ番組はどのような学力観を形成しているか?

日々様々なジャンルが登場するテレビのバラエティ番組。その中でも、クイズバラエティというジャンルの人気は根強いように思います。その人気の理由も気になることながら、「クイズ番組はどのような人を頭が良いと評価しているのか」というところも気になります。知識を多く蓄えている人なのか、計算が早い人なのか、咄嗟のひらめきが光っている人なのか……。そこで、「クイズ番組がどのような学力観を形成しているか」という問いを立て、考えを深めました。

勉強会は6月19日に開催され、このゼミが新体制となってから初めての本格的な活動となりました。例年と違い対面でのゼミ活動ができないため、オンライン会議ツールとオンラインのホワイトボードアプリmiroを併用し、十分な学び合いができるような場を整えました。この形式は、この週以降も活用されています。

今回の流れとしては、様々なクイズ番組に出題される問題の種類や出演者を比較し、共通点や相違点を探ることでクイズ番組の生み出す学力観を探っていく、というものです。

話し合いの中では実際に私たちに親しみ深い「高校生クイズ」や「ネプリーグ」「東大王」「チコちゃんに叱られる」といった番組も比較しつつ考えました。 話し合いの中で出された意見を、以下にいくつかまとめます。


出題される問題の形式や内容の傾向の変遷

この話し合いの中で例に挙がったのは「高校生クイズ」という番組です。この番組は当初、知力とともに体力も使い、進学校だけが勝つわけではないフェアなクイズ構成をしていました。その後、大人よりもすごい知力を持った高校生を中心に構成されるようになりました。そして現在は、「地頭力」と呼べるような正解が一つではない問題などで構成されるようになっているようです。


出演者によって求められる振る舞いが違う

次に、「大喜利のように遊びの答えを出す」と「正確に解答する」は表裏一体であり、高学歴の芸能人とお笑い芸人に対して、クイズ番組内では違った振る舞いの役割が存在するのではないかというものです。

この点を説明するために、私たちは「IPPONグランプリ」という番組を用いました。この番組は大喜利のNo.1を決定する番組ではありますが、この番組で出されるお題の中には、ランキングの下位を当てるもののように、普段注目はしないが、実際に正確な解答が存在するものもありうるのです。このように大喜利の面白い回答と正確な答えは表裏一体といえるのです。


謎解き問題に潜む「暗黙の了解」

また、知識を必要としない謎解きのような場合でも、暗黙の了解のようなものは存在するのではないか、その暗黙の了解のようなものをひっかけに利用して問題ができているのではないかということについても話題にあがりました。

これは謎解きなどの通常知識を必要としないクイズにおいてでさえも、日本での生活上当たり前の決まりや文字が使われます。これは外国人には説明しなければ理解できないものです。このように、どのようなクイズであっても、その文化圏内で生活するうえでいくらかの知識は身についていることが前提になっているのです。

特に私が興味を持ったのは、このクイズの問題の成立条件についての意見です。例えばいわゆる「オタク」のみが知っているような、細かい知識の披露が視聴者全員から求められているかというと、そうではありません。視聴者が面白いと感じるクイズの問題かどうかは、視聴者の興味や関心、つまり視聴者の生活する社会の中の文化に直接関係しているのではないかという視点。これは私にとって新しい見方でした。

このクイズの成立条件についての考え方は、教員が授業の導入に使用する話題作りのアイデアにもつながるものだと思っています。人は文化によって興味関心や共感できることも違います。そのため、外国にルーツを持つ子どもなどが在籍するような多文化な教室では、複数の視点で導入の内容を考えることも必要です。今回のゼミの内容は、実際の授業運営のヒントにもつながる大変有意義な時間でした。

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