#2 地図という名の物語(2017.3 1期)

ことば工房 第2号 地図という名の物語

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第2号、「地図という名の物語」をお届けします。

『ことば工房』第二号のテーマは「地図という名の物語」です。

何故、ことばの教育を考えるこの雑誌で、「地図」をテーマにしたのかの経緯をここで話しておきます。

もともとのきっかけは、今回、この雑誌の制作にもご協力いただいた今尾恵介さんの『地図マニア空想の旅』という一冊の本でありました。地図の世界では大家でいらっしゃる今尾さんは、「一度も行ったことのない場所を、あたかも行ってきたかのように書く紀行文」という体裁でこの本を書いています。

物語の中では、その当時の地形図を見ながら、明治時代の赤坂を歩いたり、戦前の択捉島の地形図を頼りに、北方領土問題が解決したという、2038 年の
架空の未来で、択捉島を旅したり、また、国内だけでなく、海外の
地図から、イギリスのローマ古道を辿ったり。

遠く離れた土地、もはや行くことのできない「過去」や「未来」に地図を頼りに行く、という物語になっています。

ある「現実」を、その「現実」を知らない他者に伝えるとき、どうしても別の記号に置き換える必要があります。最も身近な記号は言語ですが、その意味では、地図もまた一つの記号であります。

ここに、ことばの教育と地図の接点を見出したのが、今回の特集が組まれたきっかけでした。

地図という記号は、一見「客観」的な現実を描いているように見えて、実は「主観」的な価値観が描きこまれています。描いた人が知らず知らずのうちに描きこんでしまった「主観」を意識しながら、地図から現実を想像するには、ある種の地図文法とでも言うようなものが必要なのかもしれません。その文法を見つけ出し、地図を「読む」ことが、今回の特集のねらいです。

それぞれの記事で取り上げた、「青い目の人形」「祖母の見た横浜」「池袋の変遷」は、そんな地図の持つ「主観性」を、その時代、その場所にいた「誰か」の目線から描こうとした結果、生まれてきたテーマです。地図から考えることばの教育をお楽しみください。